6-2. 大腸菌のプラスミド
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1) ColE1
バクテリオシン
細菌がつくる他の細菌を殺す物質
コリシン
大腸菌がつくるバクテリオシン
ColE1というプラスミドにコードされている
コリシンが他の細菌を殺してくれるため、プラスミドの保持は大腸菌にとって有利に働く
典型的な小型のリラックス型プラスミド(15~30個/細胞)、よく増幅するため、大腸菌で組換えDNAを増やす場合のベクターの材料として(特にoriとして)汎用される
ただし、10 kb以上の大きなDNA断片が挿入されたものは増えにくい
1 kb=1,000 bp
memo: ColE1の増幅制御機構
ColE1の複製はプラスミドでコードされるRNAとタンパク質(RomあるいはRop) で、それぞれ正と負に調節されている
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プラスミドの増幅
プラスミドをもつ細菌を抗生物質のクロラムフェニコールで処理すると、細胞内のタンパク質合成が止まって細胞増殖は止まるが(注: Romも減少する)、残存する複製酵素と調節RNAによってプラスミドの複製が続くため、コピー数は数十倍に増える
ColE1のoriをもつpUC系のプラスミドベクターはrom遺伝子を除いてあるため、コピー数は常時非常に高い
2) R因子
概要
R因子(Rプラスミド, 耐性因子)
抗生物質などの薬剤耐性(Resistance)にかかわる
さまざまなものがあるが、大部分のR因子は大型のプラスミドで、細胞に1~数コピー存在する
基本形は100 kb程度のRTF(耐性伝達因子)で、色々なものがあるが、ここにさらに耐性決定因子といわれる耐性遺伝子が挿入されている
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耐性遺伝子の産物は細菌を殺す薬剤を分解や化学修飾などによって無力化するため、細菌にとって有利となる
R因子は細菌同士の接合時に、他の細菌に移植することができる
薬剤耐性
耐性遺伝子には多くのものがあるが、トランスポゾンとして運ばれる
アンピシリン耐性遺伝子(Ampr)$ Amp^rはTn3
$ Amp^rは使いやすく、ほとんどの大腸菌プラスミドベクターの選択マーカーに使われる
β-ラクタマーゼをコードし、アンピシリン(ペニシリンの一種)のβラクタム環を切断する
クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cmr)$ Cm^rはTn9
$ Cm^rはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)をコードする
テトラサイクリン耐性遺伝子(Tcr)$ Tc^rはTn10
カナマイシン耐性遺伝子(Kmr)$ Km^rはTn5
memo: プラスミドを安定に存続させるには
プラスミドは細胞から自然に落ちやすい
このため薬剤耐性遺伝子をもつプラスミドを細胞内に安定に保持させる場合は常に培地に薬剤を添加し、プラスミド保持細胞のみ増殖させるようにする
3) F因子
概要
F因子
宿主細菌に性/有性生殖の能力(稔性:Fertility)を与える94.5 kbのストリンジェント型プラスミド
性腺形成遺伝子をもつが、F因子をもつ供与菌(雄菌: F+$ \mathrm{F^+})がもたない受容菌(雌菌:F-$ \mathrm{F^-})と接触すると、性線毛を使って接合し(連絡通路ができる)、F因子はローリングサークル型複製で複製しながらtraオペロンの端から雌菌に移動して複製を完了させ、雌菌が雄菌に変わる
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ただF因子は不安定なので、一定の比率で抜け落ち、自然界で雌雄の比率は維持されている
F因子の複製起点を含むベクター(BAC)は、40 kbといった大きなDNA断片を組み込むことができる
Hfr菌
F因子にはトランスポゾンの性質をもつ挿入配列(IS:insertion sequence)が多数あり、宿主ゲノム中にあるISとの間の組換えによって染色体に挿入される
このようにしてF因子が組み込まれた細菌をHfr(High frequency of recombination)といい、高頻度に組換えを起こす
Hfr菌も雄菌の性質を示し、接合するとF因子内のoriTを先頭に染色体が受容菌に移動する
約90分で移動するが、完全に移動することは通常まれ
受容金は移入DNAに関して一時的に部分二倍体になり、その部分で相同組換えが起こる
染色体の交換は有性生殖の基本であり、細胞に有利に働くと考えられるが、これがこのプラスミドがF(稔性)因子とよばれる理由
memo: F'(Fプライム)
Hrf菌中のF因子が切り出されるとき、染色体遺伝子の一部を取り込んだF因子ができることがあり、これをF'という
Column 抗生物質とペニシリン
抗生物質
もともとは放線菌などの微生物がつくり、他の微生物の生育を阻害する物質を表す用語
ストレプトマイシンを発見したS.ワックスマンによって提唱された
現在ではそれらに関連する誘導合成薬剤も含めて使われ、なかには真核生物の増殖を阻止したり、ウイルスの増殖を阻止したり、抗腫瘍能をもつものもある
ペニシリン
最初に発見され、現在でも最も重要な抗生物質の一つ
A.フレミングにより、青カビ(Penicillium属)から発見された
フレミングは当時、抗菌性物質を色々と探しており、唾液中の抗菌成分が、卵白に多量に含まれるリゾチームであることの発見者でもある
1928年、フレミングはシャーレで増殖させていたブドウ球菌が、そこに偶然紛れ込んで生えたカビの回りでは増殖していないという現象を見つけ、「カビから増殖阻止物質が出ている」という着想を思いつき、その物質をペニシリンと命名した
その後ペニシリン(ペニシリンG)は精製されて構造が決定され、第二次世界大戦中には多くの人命を救うことになった
その後千倍以上の濃度でペニシリンを産生するカビが発見されるなどの技術革新があり、現在では構造の異なる種々のペニシリンが効率的につくられている
より薬効のある半合成ペニシリン(e.g. アンピシリン、メチシリン)、あるいは完全合成品のペニシリンも広く流通しているが、すべて同じ作用機構を示し、ペニシリン系抗生物質に分類されている